工場・倉庫の建築計画を成功に導くために(1)
新築か増改築か?

本稿は経営者様、企業の施設担当者様向けの記事となります。

本稿では工場や倉庫に関して「新築するか増築するか」という問題について、アプローチの違いや特徴を記載します。

増改築によって存続させるべきか?

下記の3つのパターンのうちのどれかに突入したら、新築という選択肢ではなく、まず「大規模な増改築」によって工場の生産性や処理能力を拡張、改善したいとお考えになると思います。

  1. 受注量が増えてきて、将来を考えて生産性を根本的に引き上げる必要が出て来た。
  2. 工場を創業して何十年も経つ中で細かな増改築を繰り返してきたため、導線の混乱やワークフローの不合理が生じている。
    ※しかも建築は違法状態であることも多い
  3. 経年で建物が傷みすぎて耐震性や使い勝手に支障がある。
    ※構造体の耐荷重が少なすぎて新しい設備や機械を入れられない等、維持更新に問題がある。

現在の敷地に容積率の余裕、あるいは空地が有る場合は、比較的増改築を実現しやすいと言えます。・・・が、やっかいなのは既に敷地に目一杯に工場や倉庫が建っている場合です。

ネックは「工場の操業が止められない」ことにあります。
数日で工事が終わるようなものであれば、例えばお盆の時期を狙えば良いのですが、増改築となると簡単にはいきません。屋根を取り替えるにしても、雨がかかると中の工作機械などが濡れるため、別の場所に避難させなくてはならないからです。しかし、その「別の場所」がない・・・こういう状態でどうしたらよいか、お困りの方も沢山おられるのです。

例えばこんな風に模型を使って増改築のプロセスを検証します。

機械の配置にも当然ながら工程による並び順があるため、大まかなセクションごとに仕分けしながら、解体と増築の手順を考えている。最大の効率化が望めるパターンはどれか、工場にとっては死活問題だから、無数に検討が行われます。将来的に入れ替える予定の機械やスタッフの方の配置に関する話も混じってくるので、パターンはさらに複雑化します。

このスタディは設計者だけでなく、工場経営者や工場のスタッフ、機械の納入会社、あるいは構造設計者やゼネコンによる見積と連動するため、非常に混乱に満ちた(?)波瀾万丈の設計期間となります。

敷地の余裕がない場合の建築方法

工場の創業が止められず、かといって1回で完全な新築ができない広さの敷地内で建てようとする場合は、回り道のプロセスを辿らなくてはなりません。

事例1

  1. 既存工場の一回り外側に柱を立てる
  2. 既存平屋をすっぽり包むように独立した2階建ての建屋を建設
  3. 既存工場内の機械を2階に移動
  4. 既存平屋を解体、1階床を整備
  5. 1階を改めて施工し、全体を完成させる

・・・なんていう難易度の高い計画を実現した例もあります。かなり面倒なプロセスですが、結果的に既存の2倍以上の床面積を獲得したことになります。このように多少回りくどくても、建てた後の恩恵があれば、こうしたプロセスも有りえます。

事例1よりも敷地に多少の余裕がある場合は、下記の手順が考えられます。

事例2

  1. 既存工場とは別に、敷地の余白部分に建物を建てる
  2. 完成したらそこに既存の機械の一部を移動
  3. 機械を移動させたら既存工場の一部を解体
  4. 解体した部分に新築し、最初の新築建物と連結
  5. 残りの既存工場を解体

要は、空いているスペースに少しずつ建てて、次第に大きい全体をつくるというプロセスです。

事例3

こちらは弊社の手掛けた「Luminous」の前身である旧工場での検討です。上記の事例2のプロセスをさらに複数回繰り返し、徐々に完全な新築に移行していく手順の検討図です。


上記では、多くのパターンを検証しつつ、工程ごとの概算と各手順を検討しています。設計期間も長期化するだけでなく、プロセスが特殊なだけに基本設計段階で、概算見積もりを出していかないとプロセスを決められないため、施工者も動くことになるります。

このケースの場合は、プロジェクトの性質上、相見積ではなく特命工事になる可能性が高くなります。特命だと最終的な価格が落ちにくい傾向があるため、こうしたことも念頭に置かなければなりません。

相見積(あいみつ):設計図書と見積要項書を複数施工業者に渡し、共通のスタートラインから見積もりを取る方式。細目を比較することで工事に対する考え方や姿勢がわかる。見積内容によっては最も安い金額を入れた業者で決まるとは限らない。

特命工事:1社に絞って進めるやりかた。工法の難易度が高い物件や、上記のように増築プロセスの検討から参加してもらう必要がある場合などで採用される。長年付き合いのある、信頼できる業者の場合は相見積もりより効率が良い。しかし他社の価格など比較できる要素が無いため、慎重に進めなければならない。

増改築か新築か?

次に増改築と新築のそれぞれの特徴を見てみます。

増改築の特徴

単発の増改築なら良いのですが、増改築を繰り返して全体を刷新する方法は、一般的に工期が長期化する傾向にあります。また、重機が入る関係で一部の操業に支障が出たり、申請費や設計費がかさむので、総合的に考えて計画していく必要があります。

また、工場全体としての見た目も気にされる場合、建物を連結すると一つ一つの建物が構造的に完結している必要があるため(※)、構造的な縁を切る仕組みが必要となり、見た目も野暮ったくなる傾向にあります。こうしたことには目をつぶれるのであれば、長期化することを念頭に、速やかに増改築計画の検討を進めた方が良いと言えます。

予算の関係や土地が見つからないといった理由に加えて、妥当と思えるプロセスにたどり着いた場合、「増改築」は取るべき選択肢となります。

※一つ一つの建物が揺れた時に、応力が伝達しないようにエクスパンションジョイントを使用します。

新築の特徴

一方で「別敷地の更地を購入して新築」というパターンも並行して考えていかねばなりません。別敷地で新築するメリットは、将来の生産性に見合った広さを選べるというだけでなく、

  • 高速道路に近くて出荷しやすい
  • 従業員が通いやすくなる
  • 0からデザインを作れるので刷新した企業イメージや理念を体現できる

といったように、工場のあり方を根本的に刷新できる可能性があり、一考に値します。その工業団地の工業組合やお付き合いのある銀行に声を掛けるといいでしょう。

現在の敷地に興味を示してくれる会社の情報、そして経営者様のビジョンに適った新しい土地の情報について探ることができます。うまくいけば既存敷地の売却新しい土地の購入を並行して進めていける可能性もあります。

新築の注意点

上記のケースを想定する場合に注意しなければならないのは、平成15年に施行された「土壌汚染対策法」です。売却時に土壌の調査が義務づけられています。
重金属などの有害物質で汚染されていた場合は土を入れ替えたり中和するなど、なにかしらの浄化が必要となります。また、相手方が既存建屋で操業したいと考えられた場合は、ある意味双方にとってラッキーですが、相手方が新築を計画している場合は解体費もかかります。土地の仲介手数料だけではなく、様々な費用がかかるので、土地の売買差額だけが出費というわけではありません。

まとめ

いずれにせよ、既存工場がある程度順調に稼働していると、増改築や新築になかなか踏ん切りが付かず、かといって大幅な拡張も望めない場合、計画ごとのプロセスをパターン別に整理していき、それぞれの効果と意味を考える必要があります。

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