工場・倉庫の建築計画を成功に導くために(2)
プレハブか、製作か?

倉庫や工場をプレハブ建築として建てるか
あるいは
0から設計を依頼して建築するほうが良いのか
と、お悩みの方がおられるかもしれません。

本稿は経営者様、企業の施設担当者様向けの記事となります。

プレハブとは?

プレハブというのは正確にはプレファブ工法またはプレファブリケーションprefabricationを簡単に言っている言葉で、pre=「前もって」、fabrication=「製作」ということで、予め工場で加工された部材で作る建築のことです。

通常の建築も工場で制作した構造部材を現場で組み立てるので、どちらもプレハブと言えなくもないのですが、本稿でのプレハブ建築とは規格型の建築を指します。

こうしたプレハブ建築は大抵の場合、各メーカーでシリーズ化されています。使う部材が決まっていて定型の建物しか建てられないというデメリットもありますが、コストダウンや工期を短縮できるなどメリットがあります。構造体や部材が一定なので大量生産に向いていますし、同じ建物を同じ手順で建てるので、職人の熟練度を一定に保ちつつ、工程も合理化できるわけです。

似たような用語でシステム建築というものもありますが、これは規格型とは異なり、オーダーメイドです。部材の納まりを標準化した仕様にすることで多少の形やサイズが変わっても同じ納まりの展開でシステマティックに作れることを指して「システム」という用語が使われます。専用の構造材を開発したり、部材同士を一体化するなどコストダウンの工夫がされています。

本稿ではちょっと乱暴ですが、プレハブ建築もシステム建築も「プレハブ」という単語のくくりで記載します。一方で建築家やゼネコン設計部が0から設計する建築を「製作」と言い分けることにします。

※本当は「在来」という用語を使いますが、イメージがつきにくいと思いますので「製作」と書きます。)

プレハブが使える用途は?

プレハブ建築というと倉庫・工場、あるいは物流施設といったイメージかもしれませんが、仮設校舎や店舗、保育園や老人ホーム、スポーツ施設など様々に応用されています。本稿では工場・倉庫といった大きい空間を必要とする建物に焦点を当てて記載します。

プレハブ=安い?

プレハブの概要はさておき、一般的には「プレハブ=安い、早い」というイメージが強いのではないかと思います。こうしたイメージが先行しているので、プレハブに対する誤解や表面的な坪単価が独り歩きしているので、製作建築という選択肢が最初から無いケースがほとんどでしょう。

プレハブ建築のメリットが強調されがちですが、本稿ではプレハブと製作のメリット・デメリット、あるいはコスト的な側面など、経験や聞き取りを踏まえてご説明します。

プレハブメーカーの動き方、関わり方について

プレハブメーカーにはいろいろな方針の会社があります。構造については上物のみしか関わらない、というメーカーもありますし、設計から施工まですべて自前でやりきるメーカーもあります。敷地が広くて外構工事など複数の要件が絡む場合はゼネコンが元請けとして請けることが多いので、ゼネコンの下に入って建物だけプレハブメーカーが関わるというケースもあり、状況次第で柔軟な動きが可能です。プランやお客様との打合せは建築士が行い、コスト管理や構造計算のサポートをメーカーが行うという形態もあります。

こうした動きをお客様は知らないので、最初にプレハブメーカーや地場の工務店に駆け込んでしまいます。設計部を持たない工務店の場合はプレハブメーカーに駆け込んだのと同じことになります。もちろん工務店の経費分は高くなりますが、地場の信頼を置く工務店であれば保証やアフターの安心感が得られるという意味では良いと思います。

プレハブのスケールメリット

一定の大きさ以上でないと、プレハブとしてのメリットがないと言われていて、この考え方をスケールメリットと言います。200坪程度までであればプレハブも製作も大して差がありませんが、スケールメリットが出てくるのは500坪以上と言われています。メーカーによっては300坪以上と謳っている会社もあり、各社の仕様や体制などによって細かな違いはあります。

大きい建物ほど坪単価が安くなる

工場・倉庫のように大空間建築であれば、坪単価は一般に建物の延床が大きくなればなるほど、安くなっていきます。これはプレハブも製作も同じです。「施工費÷延床=坪単価」ですので、規模が大きくなると材料あたりの延べ面積が大きくなり、相対的に坪単価が安くなっていきます。

したがってA社が25万円/坪で、B社が28万円/坪だったとしても、延床がいくつなのかを見なければならず一概に比較できません。条件によっては20万円/坪を切る会社もありますが、概ね20~25万円/坪程度と考えていいでしょう。

参考までにですが、弊社が手掛けた大規模の製作建築でも21.5万円/坪(建築費のみ)というケースもありましたし、小規模でも24万円/坪というケースもありましたので、延床や仕様によっては製作でもプレハブとほとんど変わらない坪単価で作れます。ただし、建築家に依頼した場合は設計料もかかりますので、工事費の総額で比較すれば、プレハブメーカーのほうが安いでしょう。もちろん0から設計した場合は、お客様の個別性の高いニーズに合わせて設計するわけですから、満足度の高いものができるはずです。

※例えば敷地内の既存の建物の図面を読み解いて、違法部分がないかチェックし、それに応じた動き方をご提示できます。総合的な観点でご相談に応じられるのは建築家の強みかもしれません。

なぜ規模が小さいとスケールメリットが得られないか?

仕様が同程度で規模が小さい場合、プレハブも製作も坪単価が近似してきます。この理由は2つあります。

1.構造形式によるもの

ちょっと専門的になりますが、ラーメン構造とブレース構造という構造形式があります。

  • ブレース構造は斜めの材を入れて、建物が地震や風で変形しにくくするものです。木造で言えば筋交いと同じです。
  • ラーメン構造は斜めの材が無いので構造のフレーム自体で踏ん張っているようなもので、こちらの方が鉄骨の体積が増えてコストアップになります。

※ラーメンというのはドイツ語で「額縁」という意味です。ラーメン構造とは2本の柱と2本の梁が一体化し、「枠=フレーム」状の構造になっているという意味です。

規模が小さい場合でもトラックや荷物の搬出入となる開口が必要です。開口がたくさん必要になる工場や倉庫の場合、ブレースが必要な量を確保できないケースも出てくるため、ラーメン構造を採用する必要が出てきてコストアップします。ちなみに、開口が多い壁面の方向はラーメン構造にし、開口が少ない方向の壁はブレース構造にするといった具合に、XY方向で構造形式を混合してコストダウンを図ることはできます。

2.面積が倍になっても施工費は倍にならない

最初の方でお示しした「施工費÷延床=坪単価」という式を思い出してください。

例えばの字型の梁で構成される屋根の鉄骨は4本です。面積が4倍になっての字型の屋根になった場合、梁の数は12本です。面積が4倍になっても梁の数は3倍です。したがって面積が4倍になったからといって施工費は4倍にはならないわけです。(※)仮に施工費が3倍になっても分母の面積は4倍になるといった具合に、面積が増えるほど分子と分母の差の開きが大きくなり、相対的に坪単価は安くなっていくというわけです。したがって規模が小さい場合は、製作で建てた場合と変わらなくなってくる、というわけです。

※実際は高さ設定も関係しており、鉄骨量や外壁面積、設備能力に影響があり、こんなに単純な計算では収まりません。

逆に規模が大きすぎる場合は?

プレハブのように規格型の場合は、供給できる面積の上限があります。規格化する以上は一定量のニーズが見込めるものでなければ意味がありません。ちなみにシステム建築の場合は大規模も受注可能です。

その他に、面積の上限があるケースとしては、管理体制の問題や、提携している鉄骨製作工場のグレードに関係している可能性もあります。鉄骨製作工場は大臣認定のグレードが5つあり、高いグレードになるほど、扱える規模や材種、工員の数や技術力が増えていき、体制が異なります。しかしながら上のグレードほど良いわけではなくて、小さい規模の鉄骨をたくさん扱う工場であれば、安価に精度良くできるので、こうしたコストダウン要素の組み合わせによって坪単価設定がなされていると考えられます。

坪単価におけるその他の注意点

メーカーの謳う坪単価を見るときは、例えば断熱材や建材のグレードなど、仕様の違いも見なければなりません。高品質であれば高くなるのは当然のことだからです。

こうした坪単価の表記を見る際は注意が必要です。プレハブメーカーの謳う坪単価は「建築費」について書かれており、これは給排水、電気設備地盤改良、外構などは含まれていないです。含まないのは当然といえば当然で、工場の扱う内容によって変動する要素だからです。例えば水を大量に使う工場もあれば、電気を大量に使う工場もあり、個別性が高い要素です。又、外構費は300m2整備するのか3,000m2整備するのかでも工事費が変わり、こうした変動要素は坪単価に入っていないはずです。

もう一点、坪単価とは別に会社の管理費や諸経費がどのように計上されているかも確認する必要があります。表面的な坪単価のみの比較では決められない、という点をご注意ください。

プレハブのデメリット

さてプレハブの概要や詳細をご説明してきましたが、一連のメリットはデメリットと表裏一体です。規格型ということは、イレギュラーなことができないということでもあります。自由に建材を選べるといってもメーカーが選定したものの中から選ぶということであって、お客様の思い通りになるわけではありません。たとえば、工場の作業を考えて、

  • 「1階の柱を一部抜いてスパンを飛ばしたい」
  • 「トラックを中に入れるので部分的に天井を高くしたい」
  • 「ここは重量物の積荷を設置したいので中の構成を変えたい」

・・・などなど、各工場ごとに出てくるであろう細かなニーズに応えづらいことが多いのです。また、お客様の種々の問題を解決するような建築的アイディアを提案する、といったことにも弱い傾向にあります。また、現場を担当する監督もイレギュラーな収まりができないこともあります。なぜか分かりますか?これには3つの理由があります。

  1. 規格を外れてしまうと部材の選定から構造計算、積算、制作手順までいろいろ変わってきます。「規格」というパッケージの中で最もメリットを発揮するのが規格製品の特徴です。いつも同じ手順の作業には熟練度が上がりますが、個別性の高いものに対してじっくり取り組むという体制ではありません。
  2. 規格外を組み込もうとすると価格が上がってしまいます。特注部材は、自社が構築している商流から外れ、材料単価や労務費(職人単価等)が変わってしまいます。コストアップするとプレハブとしての優位性が無くなります。
  3. 規格外を組み込むと、自社で想定しているイレギュラーな問題に対応しづらい、保証しづらい、などの問題が出てきます。もしプレハブメーカーの社内に設計部や製作建築を豊富にこなした経験者がいれば対応可能です。しかしながらプレハブメーカーは「一定の仕様に対して合理性を限界まで追求する」というモチベーションで動いているので、基本的にはイレギュラーに応えづらい体制です。

つまり会社や担当者の能力的な問題というよりは、プレハブがもつ特性にハマってこないわけです。もし無理に組み込もうとするとコストだけでなく、様々な問題が発生するリスクを懸念し、メーカーが渋る可能性はあります。当然のことながらシステム建築でも、細かなニーズに対応すれば、個別性の高い納まりや部材が増えることになって製作建築とコストが近似してきます。

柔軟に対応可能なプレハブメーカーも存在するが、、、

もちろん様々なニーズに応えられるような体制を構築しているメーカーもあります。ただイレギュラーが多くなれば、それは製作建築しているのと価格が近似してくるということでもあります。この点さえ踏まえておけば、細かなニーズに応えた工場・倉庫建築を期待できます。

でもちょっと待ってください!

プレハブも製作も価格が近似してくる、ということであれば、最初から豊富なアイディアと提案力を持った建築家に依頼する方が合理的というものです。なぜなら考えるべきことは建物だけではないからです。全体計画から考えて、土地の有効利用や関連施設をどのように関連付けるか考えたほうが良い結果を得られるというケースもあるのです。その上でコストを合わせるために骨組みと外装だけプレハブ(システム)を導入するという選択もあり得えます。

製作建築がプレハブに対して割高になりやすい理由

プレハブメーカーの向いている先

このあたりの話は建築家であっても本当の理由がわからないような難しい領域です。工場・倉庫となりますと構造体が占める割合が大きいので構造体に特化して記載しますが、構造家の設計とプレハブの設計では鉄骨のサイズが異なる場合があります。

これはなぜなのか?プレハブは危ないの?あるいは構造家の設計は過剰なの?・・・と様々な疑問が出てきそうです。しかしながら、どちらも国の定める安全基準である建築基準法をクリアしているわけです。

コストを追求するプレハブやシステム建築は多少の余裕度をもちつつも、限界までコストダウンを図ろうとするモチベーションが働いているので構造体はスリム化する傾向にあります。

構造家の見ているもの

構造家モチベーションを説明するためにいったん脇道に逸れますが、基準法が示す基準とはどのようなものなのでしょうか?

国が定める安全基準は最低限守るべき基準です。どこかで線を引かないと国民を守れず、かといって安全性ばかり重視して上位レベルに線を引けば、国民に建築費の負担をかけすぎることになります。・・・というわけで国は安全基準の最低ラインを示しているのです。

構造家は最低限の基準をクリアするのは当然として、過去の経験則や経年変化を考慮して安全側に判断する傾向にあります。例えば外壁の胴縁を留めるボルトであれば、プレハブやシステム建築が1本で留めるところを、あえて2本で留めるよう指定することもあるのです。これだけでボルトの本数が倍になるわけです。このような計算上の安全率だけでなく、経年を考慮して、より頑丈な構造にしていこうとするモチベーションが働いているのです。したがって構造家が設計した場合は、当然コストアップする傾向にあります。もちろん構造家も絶えず構造コストを頭に入れており、過剰設計にならないように気をつけた上での話です。

私はいろんな構造家の方の話を聞き、自分でも木造の構造設計に足を踏み込んで理解を深めるなかで、この線引きが実に人間臭く、設計者なりの良心が反映されたものであると知りました。これが製作建築の構造体が高くなりがちな理由です。

限界まで削減してコストをとるか、経年変化や不具合を考慮して頑丈に作るか、という問題になってきます。もちろん発注者は構造的な細かいことはわからないので、最終的には建築家や構造家の人間性や経験則を信頼するかしないか、という話になってきます。

製作建築をつくるとき、過剰設計を防ぐには?

先ほど、構造家の例のように様々な考慮して安全側に判断していく設計もありですが、基準法ぎりぎりを狙ってコストダウンを図る方法もアリなわけです。しかし、地震や台風といった災害時に連鎖的に被害を拡大させてしまう建物は要注意です。例えば工場が大手企業の部材や製品を担う工場が壊滅してしまうと生産がすべてストップしてしまうこともあります。熊本地震のときにもそういう事例がありました。つまりその工場の問題だけでは収まらず、工場に納品する下請けも、製品を納品する先にも混乱が生じます。このような要となるような施設の場合が問題なのです。

コストなのか安全性なのか?・・・非常に難しい問題ですが解決策はあります。こうしたレベルの建物を作るときには性能発注という考え方があるのです。

最低限の基準からさらに上位に何段階か線引きをつくり、要求する性能を必ず満たす設計にするよう発注指示書を作るわけです。一定の要求性能基準を示し、そのギリギリを狙うという考え方です。こうすれば構造家もギリギリを狙うことができます。性能発注の考え方は比較的最近出てきた考え方なので、まだ一般化していないと思いますが、発注者と建築家、構造家の三者でじっくり話し合いながら、自分たちの必要とする性能基準を見定めていくわけです。例えばコンクリートの基準強度を変えると中性化の期間が変わって耐用年数が大きく変わります。建物を何年ぐらい維持させるのか、その定め方によってコンクリートの材料費が変わります。30年程度もてば事足りる、という建物であればコンクリートの基準強度を下げてコストダウンできます。

まとめ

お客様が最初からプレハブを選択した方が良い場合

  • 敷地に余裕があり、特殊条件が少ない立地である
  • 設計から竣工まで短期間で建築したい
  • 特殊な要望は無く、必要な大きさの空間を確保したい
  • 提案は特に不要、目的の工場・倉庫が問題なく稼働すれば良い
  • コストを限界まで落としたい

こうした条件がそろっているのであれば、プレハブを選択されるべきだと思います。このような条件での建築ニーズは日本全国に数多くあると考えられます。お客様のニーズを再度チェックしていただき、上記の条件が揃っていて、なおかつ完成後のイメージがはっきりしていれば、プレハブメーカーにご依頼されることをおすすめします。規模が大きかったり土地の造成等が絡んでくるようであれば実績のある工務店やゼネコンに依頼し、プレハブやシステム建築の提案をお聞きになってください。

建築家に相談したほうが良い場合

アイディアを盛り込んで計画を進めたい場合は建築家に依頼すべきです。敷地全体の使い方や、関連施設など個別性の高い提案も扱えます。普通では得られない魅力的な計画になる可能性があります。発注者側のニーズがモヤモヤしていてクリアではないと感じられたら、相談や提案を必要としているサインです。特に性能発注の考え方は数十年先の動き方を左右するもので、かなり微に入り細に入った話し合いが必要です。また、完成後も相談や提案をうけることも可能でしょう。


本稿の経緯と執筆動機について

お客様の要望で、コスト的な要件からプレハブメーカーさんとやり取りしたことがありました。計画が形になっていく過程で、お客様からいろいろと要望が出てきたのですが、それに対応するためのコストが合わなくなり、かといってコストに合わせるような代替案も提案できなくなり、製作建築として計画を移行したこともありました。これは本来建築家やゼネコンの設計部とやり取りしながら進めないといけないタイプのお客様なのに、プレハブメーカーの価格設定が頭にあるところに問題があるわけです。

  • 「あそこの会社が坪いくらで建てた」という又聞きの数字が独り歩きするパターン。
  • 要望が標準的なものであるにもかかわらず、製作で進めたためにコスト感が合わなくて減額案をひたすら提出するといったケース。
  • 価格設定からプレハブメーカーに声をかけたが、意外に要望が沢山でてきて、当然それが盛り込めると思って要望するも、提案もコストも合わずメーカーの担当が苦しむケース。

いずれも誤解やミスマッチから起こるものです。お客様が最初に声を掛けるべきところはどこなのか、その線引きやガイドラインがないために、お客様も含めた3者が誰も得をしない状況になっているケースがあると感じたため、本稿を書きました。

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