なぜ賃貸住宅の断熱化は進まないのか?|「2050年も住みたい練馬」の会に参加して

市民の声から考える、練馬の住まいと環境のこれから

2026年1月18日、練馬区役所の庁舎で開催された会に参加しました。

2050年も住みたい練馬という市民団体が主催するもので、今回のテーマは

「練馬区で気候変動対策を進めたい!」
~身近な住まいのことから~

でした。

ご案内をいただき、団体の方々がどのような問題意識を持って活動されているのか、また、実際に集まる方々が住まいや環境について何を感じ、何を疑問に思っているのか、その生の声に触れてみたいと思い参加しました。

この団体は、気候変動や脱炭素対策が十分とは言えない練馬区において、持ち家・賃貸を問わず「住まいの省エネ・断熱化」を進めていこうという活動をされています。

行政に先行するかたちで、市民側から明確な問題意識と目標が示されている点に、大きなエネルギーを感じました。

当日は30〜40名ほどが集まり、年齢層や職業もさまざま。

住宅地としての性格が強い練馬区という地域で、これだけ多様な立場の人が住環境の話題に関心を寄せていることが印象的でした。

経験に裏打ちされた講義

当日は、練馬区で長年住宅の設計・施工に携わってこられた「株式会社アセットフォー」の荒井さんが、ゲスト講師として登壇されました。

講義は、気候変動という大きなテーマから始まり、高気密・高断熱住宅をめぐる技術的な課題や、その周辺にある制度・考え方まで、限られた時間の中で幅広く整理された内容でした。

駆け足ではありましたが、単一の価値観に寄ることなく、複眼的な視点で語られました。質疑応答では、実務経験に裏打ちされた中立的でバランスの良い受け答えが続き、参加者の皆さんが熱心に聞き入っていました。

温熱の話は理解すれば単純ですが、非常に多岐にわたるので、例えば「断熱と気密と換気の関係性」がピンとこない、というのも頷けます。

現状と問題提起

続いて、主催団体の方々から、現在取り組んでいる活動についての紹介がありました。

今回の会で特に強調されていたのが、賃貸住宅では、持ち家に比べて省エネ・断熱化が進んでいない、という点です。各種統計データをもとに、賃貸住宅が「仮住まい」と捉えられがちで、断熱性能への投資が後回しにされている現状の説明がありました。

借り手側には、省エネ・断熱化された住まいを求めるニーズが確実に存在している。

その声をオーナー層にどう伝えていくかが重要だ、という問題提起がありました。

オーナーに直接働きかけていこうとする姿勢は新鮮で、住環境を個人の問題にとどめず、地域全体の課題として捉えようとする意志を感じました。

なぜ賃貸住宅の断熱化は進まないのか?

ここで、設計に携わる立場から、なぜ賃貸住宅の断熱化が進まないのか、その構造について少し触れてみたいと思います。

ディベロッパーや投資家が住宅事業を計画するとき、立地や家賃相場、地価、想定する入居者層などから、おおよその規模や間取り、総工費が最初に定められます。土地の分割数(戸数)が決まり、事業計画が組まれ、その枠の中で設計と仕様が決まっていきます。

これは分譲住宅でも賃貸住宅でも同様です。最初にコスト枠が決まり、断熱性能はその枠の中で「どこまで入れられるか」という扱いになります。

実際、大手のマンションであっても、最低限の断熱しか入っていない例は少なくありません。法規を満たしていれば十分、という考え方で話が進みます。断熱に関心のある投資家であっても、住み手の基準で仕様が決まることは、現実にはほとんどありません

なぜか?

開発者や投資家は、広告や販売時の「訴求力」を非常に重視します。売れなければ事業が成り立たない以上、分かりやすく魅力の伝わる要素を前面に出したいからです。

そのとき、

「省エネラベル取得」
「断熱等級5」

といった表示に、どれだけの借り手が明確な価値を感じるでしょうか。

試しに不動産・住宅情報のポータルサイトを覗いてみてください。
まず沿線を選び、家賃や広さ、駅徒歩、築年数、設備などで絞り込んでいきます。しかし、そこに「断熱性能」や「省エネ性」を選ぶ項目は、用意されていません。

仮に絞り込みができたとしても、自分の今の住まいの性能が分からなければ比較はできず、快適さは、結局住んでみなければ実感できません。

結果として、
→ 不動産業者も意識しないまま、入口となる情報が整備されず、
→ 性能は借り手のニーズとして表に出てこず、
→ 開発側は従来通りの仕様で供給を続けていく。

ここに、賃貸住宅の断熱化が進みにくい構造があるのだと思います。これでは住まいの高性能化が進むはずがありません。

だからこそ、開発・流通・借り手の三者に働きかけ、意識を共有する機会をつくっていく必要があると思います。

市民団体の活動と同時に、練馬区の行政にも、より主体的な役割を期待したいところです。


今回の会は、市民の動きと住まいづくりの現場を、どうすれば無理なく接続できるのかを考える、良いきっかけとなりました。

住環境において日々の暮らしの中で、どのような不満や諦めを抱えているのか。

そしてそれを、どう改善したいと考えているのか。

次回は、もう少し踏み込んで、皆さんの声を聞いてみたいと思います。

 

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