実測:パイプファンとダクト

理論値と実測値:パイプファンとダクト

理論値の追求も設計上、大事なのですが、 実測や実験によって理論値を補正したり、新たな知見を得ることができます。 今回のお題は「パイプファンとダクト

換気装置:三菱のV-08PM8 

換気装置は三菱のV-08PM8 : 風量75m3/h 18db 消費電力1.8W
2、3m離れていれば、音が鳴っているのかどうかわからないぐらいです。
耳元に近づければ小さく「ブォ—–ン」という音はします。
深夜でも試しましたが、裸の状態であれば、2,3m離れていてもモーター音はわずかに聞こえ、、、と言っても限界値に近いような音。
気にならない人は気にならないようなレベルだと思います。
音は個人差が大きいので難しいですね。
(だから最終的には、ファンをクローゼットの中に仕込みつつ、さらに防音の箱で包んで、ほぼ無音と言えるレベルになるように設計します。)

接続するダクト:コンパクトールK、断熱ダクト

それに接続するダクトは、クラレプラスチックスさんの
「コンパクトールK」
「断熱ダクト」
です。100Φのダクトサンプルを送っていただきました。
白い半透明のダクトが「コンパクトールK」
銀色のフィルムで包まれているのが「断熱ダクト」です。

この組み合わせでの実測です。

目的は、パイプファンに対する風量の圧損。および出口の音についてです。
順番に見てきましょう。

「静粛性」を検証する

弊社では空調・換気計画における5つの方針があります。

1:シンプルな空調・換気計画にすること
2:低消費電力を実現すること
3:簡易なメンテナンス性を確保すること
4:維持・更新が容易なこと
5:静粛性に配慮すること

今回は5番目の「静粛性」を検証するものです。

住宅では寝るときに「音がうるさい!」ということで、換気の電気を切ってしまうケースがあります。その結果、寝室の湿度が高まり、冬場は窓の結露が生じやすくなります。最終的にはガラス回りのパッキンのカビに繋がっていきます。また、換気不足からCO2濃度が高くなるので、睡眠の質が落ちます。

つまり、音と換気の問題は「両刃の剣」の関係にあるわけです。

ちなみに、今回はデシベル計は使いません。なぜなら、換気装置が18dbの騒音値なのに対して、一般的なデシベル計の計測可能な最小値は30dbだからです。
(高性能な高い機械でも25dbが限界です)

、、、じゃあ、30db以下なら無音か?と言われれれば、そうではありません。
人間の耳は高性能計測器以上に繊細です。
18dbだってちゃんと聞こえます。
寝静まった深夜であれば、確実に聞こえます。

こうした30db以下の音を、どれだけ制御できるのか?、、、
それは「睡眠の質」に関わることなので、住宅設計においてとても大事なことだと考えています

コンパクトールK、断熱ダクトの中

コンパクトールK

指で触るとツルツルしています。らせん状のワイヤーだけが凹凸として感じられます。ツルツルしている分、音の反射が良いのか、パイプファンの音がほとんどそのままダイレクトに聞こえます。直線でもU字型に曲げても、音の聞こえ方には、あまり差を感じませんでした。ツルツルしている分、ホコリが溜まりにくそうですが、凹凸部には多少ホコリが引っかかりそうです。

スパイラルダクトよりは凹凸があり、
じゃばらダクトよりツルツル
、、、といった印象です。
持ち上げた感じでは、気をつけて施工すれば、極端に潰れることもない、といった強度がありそうです。

都心ではまだまだ、職人さんも慣れないため、スパイラルダクトに対する抵抗感が強いらしく、ビビリ価格で見積もりが出てきがちです。でもこれなら抵抗感なく施工できるんじゃないでしょうか?

こなれた強度がありつつ、硬すぎることもなく、持ち上げても「ぐにゃっ」と折れなかったので、扱いやすそうです。フレキシブルダクト(アルミのじゃばらダクト)のように、潰れたら元に戻らない、という感じでもないです。

断熱材巻き

表面がアルミ蒸着フィルムなので光を通さず。
内部は不気味な抽象画のような感じ、、、。
パイプファンの運転の最初は、断熱材の匂いが多少しましたが、時間とともに気にならないレベルになりました。この点は問題なさそうです。

出口では音がそれなりに聞こえますが、コンパクトールKよりは明らかに音が小さいです。出口から50cmも離れれば、わずかに聞こえますが、2、3m離れればほぼ無音と言えます。この音の差はかなり大きい印象です。(計測器では計測できないレベルなので感覚的、定性的にしか表現できません。私はかなり耳が良い方なのですが、私の耳でOKであれば、大抵の方はOKと言えるレベルだと思っています。)

内側は不織布のような膜で覆われており、表皮の多孔から音が入りこみ、外側に巻かれた断熱材に音が吸収されます。

音は劇的に小さくなりましたが、ホコリはコンパクトールKに比べて、引っかかりやすくなる印象です。したがって、住まい手が自分でダクト内を掃除できるぐらいの長さであれば、静粛性と簡易なメンテナンス性を両立できそうです。

例えば室間ファン階間ファンなど、1m以下なら、両側からホコリ取りのモップを入れて、自分で掃除できそうです。

1種換気などで使用する場合は、相応の長さを使うことになるはずなので、汚れてきた場合は、ダクト清掃業者さんにお願いする必要がありそうです。現時点ではダクト清掃といえば、ハードルが高いように思えますが、1種のニーズが高まってきているので、将来的にはダクト清掃業者さんも増えて、リーズナブルに清掃依頼ができるようになると思います。ですから、ダクトを這わせることを極端に嫌う必要はないと思います。(ヨーロッパでは、煙突掃除屋さんが、職能の延長ということでダクト清掃を行っているそうです。)

しかしながら、プロに依頼するにしても、極力スパイラルダクトを使った計画にし、端部に吸音ダクトを使うことで、「施工性」「吸音性」「メンテナンス性」を両立するのが望ましいと思います。また、スパイラルを使うほうが圧力損失が少なく、その分ファンの駆動力を抑えられるため、消費電力が下がります。

これは今回のパイプファン、
三菱のV-08PM8のP-Q曲線です。

機外静圧0Paで75m3/h。
(つまりダクトなどによる圧力損失がない状態の送風能力)

「コンパクトールK」「断熱ダクト」を通過すると風量がどうなるのか?
やってみましょう。

コンパクトールK、断熱ダクトともにサンプルの長さは2.17m。
U字型に曲げた場合と直線状の場合で、それぞれ実測しました。
U字型では、直径1.4mぐらいの半円状の曲率で計測しました。

実測結果

コンパクトールK 100Φ 2.17m

直線2.4m/s→ 68m3/h P-Q曲線より、4Pa → 圧力損失1.84Pa/m

U字型2.2m/s→ 62m3/h P-Q曲線より、6Pa → 圧力損失2.76Pa/m

断熱ダクト 100Φ 2.17m

直線2.3m/s→ 65m3/h P-Q曲線より、5Pa → 圧力損失2.30Pa/m

U字型1.9m/s→ 54m3/h P-Q曲線より、8Pa → 圧力損失3.68Pa/m
(上の写真)

という、結果となりました。
スパイラルダクトよりは圧力損失が大きいですね。
しかしながら扱いやすさ、吸音性などの魅力があります。

今後、曲率を変えた場合の圧力損失も計測していきます。

追記1

深夜の音は確かに小さく聞こえましたが、家族が寝静まり、家中の音が無くなった状態だと、ファンの音しか騒音源が無いことになり、ファンの音が際立つことが判明。(と言っても微小音)

押し入れに仕込みつつ、ダクトと繋がっているので、クローゼットの扉はダクトの直径分は開いた状態ですが、この状態で寝てみることにしました。

ちょっと気になるかなあ、と思いつつも眠りに入りましたが、夜中の3時に目が覚めました。

すると、クローゼットの方から

ブ・・・・・・・・・・・・・・・・ン

こ、これは、、、!

ダクトの消音性はともかくとして、無音に近い深夜だと、モーター音が結構気になります。三菱さんが「わずか18db。業界トップクラスの静音運転」と謳う素晴らしい商品ですが、無音に近い深夜ならば確実に聞こえてしまいます。寝室とあらばなおさらです。コンセントを抜いたら、静かになって、あっという間に眠りにつきました。

寝室のエアコンはついたり、止まったりを繰り返しているのですが、エアコンが止まったときに目が覚めたのでした。エアコンが動き出すとこちらの音の方がはるかに大きいです。風のそよそよ音や、モーター音にゆらぎがあるからなのかはわかりませんが、あまり気になりません。どうやら音の大きさだけでなく、音の質によって、体に緊張をもたらすものとそうでないものがあるようです。その辺は学者さんにおまかせするとして、この問題を現実的に解かねばなりません。

今度は箱に入れて、クローゼットに完全に閉じ込めて実験です。

追記2

次の日に、クーラーボックスに閉じ込めつつ、内部の反射音、反響音の吸音を目的としてタオルを何枚か入れました。もちろん空気の流入が前提ですから、蓋を半開きにした状態です。

ダクトは階下に行くことを想定しているので、今度はクローゼットの扉を完全に閉めます。

全く音を感じず、、、正確には少し音は聞こえるような気もしますが、前回と違って、注意深く耳を傾けても、深夜の暗騒音にかき消されています。

人間はある特定の音のレンジに集中すると、そこをうまく取り出して聞き分けられますよね。でもそれがうまく特定できないわけです。しばらくずーっと耳を傾けていましたが、いくら聞き続けても何も聞こえないので、眠くなってきてしまいました。。。

これはうまくいくのでは?と思いつつ寝ました。
、、、今後は一度も起きること無く、朝を迎えました。

実験成功! これはいけそうです。