空調・換気における、メンテナンスのバリアフリー性について

文京区の千石にて、新築のお打ち合わせ。
お客様は大変高齢の方です。

この計画をきっかけに、高性能住宅には欠かせないファクターの一つである空調・換気のメンテナンス性について思案しています。

数ヶ月に一度、脚立に上って天井点検口を開け、エアコンや換気装置のフィルター清掃をするような計画は提案しづらい。。。いずれはメンテの頻度が落ちてしまう可能性が高いです。

バリアフリー住宅とはよく言われるキーワードですが、新鮮な空気と、温湿度が調整された空気が循環していることはとても大切なことですから、そのメンテナンスに障壁があってはまずいのです。ここでメンテナンスのバリアフリー性について考えてみます。

以下、考察。

例えば先程も申し上げたように、天井点検口だと脚立や椅子を運んでくるのもひと手間かかります。高齢になってきたら、脚立に登るのもおぼつかないかもしれません。デザイン上の工夫が必要ですが、天井高を1.9m程度の高さに設定することができれば、メンテナンスし易いと思います。


70歳になったつもりで、脚立に登って点検している自分を想像してほしい。
同時に、年金生活になって貯蓄を崩してまで専門業者に定期メンテの依頼をするだろうか?

一方、床の点検口だと、そこに物を置けません。
クローゼットの中の床下に点検口を設けたら、十中八九、いろいろな物が置かれることになります。床だから、それなりの重さとボリュームのある荷物を置いてしまうでしょう。
そして置いたら、移動させた上に、元に戻さなくてはなりません。
メンテのたびにできますか?


もちろん廊下にこれはありえない。せめてマットなどを敷く脱衣所の床やキッチンならありでしょう。
しかしながらパッシハウスクラスの高性能住宅のキッチンであれば、足の冷たさを解消するためのマットがそもそも不要。

あるいは、空調・換気のための専用の部屋、すなわち空調室を設ければ、地価の高い都心部ではもったいない空間の使い方になってしまいます。(費用対効果のバランスが悪くなる)また、そういう部屋は物置と兼用になるでしょうから、物がたくさん収納されたら、これもまたメンテ上のバリアになる可能性が出てきます。

あるいは、小屋裏エアコンという選択肢はどうでしょう? 実は行政によって法的な取り扱いの差があります。小屋裏への固定階段の設置を認める区と認めない区があります。固定階段があれば、比較的小屋裏に行きやすくなります。ところが、そもそも小屋裏へのエアコン設置を認めない区が多いのも事実なのです。
(小屋裏エアコンとは、小屋裏にエアコンを設置し、各部屋にファンで送風するという仕組みだが、行政区によってはそれを認めず、通達の運用により小屋裏という非居室空間に、快適性や居住性をもたらす要素をなくすべし、という前提がある。地方ではその辺がゆるく、実現しやすい傾向にある。システムのメーカーは小屋裏にエアコンを「置いている」という取り扱いで申請して対応しているケースもあると聞く。このへんは国の省エネ化の促進によって、その必要性から運用が変わっていく可能性もある。)

あるいは、床下エアコンという選択肢はどうでしょう?
これは床下空間をきちんと確保できれば、比較的メンテナンスがしやすく、法的縛りも少ないシステムです。何より床面温度が室温より高くなるという点を見逃せません。
ただし、冬季限定利用で、夏季に利用する場合は補助的な利用か、ファンをうまく組み合わせないと結露などのリスクがあります。
また、メンテナンスのために床下に適度な空間を設けるということは、基礎の作りが半地下となり、残土処分費の増大や基礎工事費などのイニシャルコストが上がるわけで、コストバランスが求められます。ここをクリアできれば、結構良い仕組みと言えます。
逆にコストを気にして狭い床下空間にしてしまうと、上述の通り、維持しづらいシステムとなってしまうでしょう。
※ちなみにパッシブハウスクラスになると室内気温と表面温度がほぼ均一になるので、床下エアコンにこだわらずとも温熱環境を維持できる。
※床下を地面下に掘り下げるのではなく、床上を持ち上げて空間を確保する方法もある。

こうして考えていくと、どの方法を選択しても一長一短あり、何かしらのメンテ上のバリアが発生します。それはすなわち快適性の維持がいずれ難しくなっていくことを意味しています。

高性能住宅に対して意欲のある若い世代の家族なら維持可能かもしれませんが、年齢が進めばどうなるかわかりません。将来的な加齢や、とかく怠けがちな人間の性からは逃れられないでしょう。そういうことまで配慮して設計しなければ、一体何がデザインされたのか?ということになってしまいます。

よって、どのシステムを採用するにしても、バリアとなるものを見極めて、それを解消する工夫が必要になります。