「地球沸騰化の時代」と、これからの家づくり(3)

本題である「地球沸騰化」を念頭に、

平均気温が+2℃上がった状態をシミュレートしたらどうなるのか?

やってみましょう!

※本稿では弊社のメインの活動範囲である、東京、埼玉、千葉、神奈川といった6地域を想定したものです。
ですが、地球沸騰化は世界的な傾向なので、どの地域でも同様のことが言えると思います。

「地球沸騰化」時代の負荷シミュレーション(+2℃、+4℃)

気候が平均的に+2℃暖かくなるわけですから、これまでの結果から、真冬の検討が不要なことは自明ですね。当然、暖房負荷が小さくなります。

そして、さらに温暖化が進んだと仮定して、+4℃になるケースもシミュレーションしてみました。

先述の+2℃というのは世界の平均気温に対する上昇温度です。+4℃なんてありえない!と思われるかもしれませんが、温暖化が進むとある地域において一時的に最高気温が+4℃高くなる可能性はありえます。そして、それは数年後にやってくるかもしれません。

ちなみに、ちょっと古い資料ですが、環境省のパンフレット「STOP THE 温暖化2008」P8によれば、「21世紀末までに、(中略)…化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会(最も気温上昇の大きいA1FIシナリオでは約4.0℃(2.4~6.4℃)と予測されています。」これは外れてほしい予測ですが。。。

出典:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2008/

では、真夏を見てみましょう。
35℃64%から+2℃して、37℃60%で計算します。

UA0.26の場合、最大冷房負荷は4.9kW UA0.46の場合、最大冷房負荷は5.9kW

結果をまとめると、

 

夏の昼
(現在)

夏の昼
+2℃
夏の昼
+4℃
UA0.26 4.5kW 4.9kW 5.2kW
UA0.46 5.3kW 5.9kW 6.4kW

※ +4℃のときは39℃54%=25g/kg[DA]

これらの結果からわかることが2つあります。

1つ目
+4℃上昇した状況におけるUA0.26の冷房負荷(5.2kW)と、
現在におけるUA0.46の冷房負荷(5.3kW)がほぼ同じであるということです。
(赤文字部分)
断熱性能の差で冷房負荷4℃分の差を補っていることになります。

よって、断熱材は冬のためだけにあるのではない、ということがわかります。
夏の暑さに対しても確実に効いているのです。

しかも、断熱材は電気代がかからず、機械のように壊れることもありません。
※ 逆にいうと、断熱性能が低いほど設備依存型になりやすい、ということです。

2つ目
UA0.26の場合は、2℃上がるごとに負荷が0.3~0.4kWずつ上昇しているのに対して、
UA0.46の場合は、2℃上がるごとに負荷が0.5~0.6kWずつ上昇しています。

断熱材がしっかり効いていれば、気温の上昇に対して、負荷が緩やかに増えます
「気温」だけでなく、「気温上昇」に対しても有効に働くということですね。

ちなみに、UA0.26のときには、+4℃の状況でも6畳用エアコン2台分の稼働巾に収まっています。
5.2kW < 冷房最大能力5.6kW

それに対して、UA0.46のときは+2℃で、すでに容量オーバーしています。
5.9kW > 冷房最大能力5.6kW

ですから、1ランク上のエアコンに変えなければなりません。

結び

さらなる気温上昇が避けられない今日、
家づくりにおいて、安易に断熱性能を落としてはいけないことがわかります。

予算オーバーしたら断熱材は真っ先に削られがちです。
しかし、これまで見てきたように、断熱性能は妥協してはいけません

これは「地球沸騰化」の時代において、快適性を維持する唯一の鍵なんです。
消費電力を最小化しながら、気候変動に左右されにくい住環境が実現可能になります。

断熱材は最強の冷暖房設備と言えるかもしれません。

高気密高断熱の家では、「夏を旨とした設計」を行えば、その断熱性の高さから、必然的に冬も快適に過ごせることになります。

おまけ (冬のオーバーヒート)

今までは気温上昇した中で、夏のシミュレーションを見てきました。
では、真冬の晴れた昼間はどうなるのか?

エアコンの稼働が無いにも関わらず、+6.1kW

これがオーバーヒートと言われるものです。
こたつ一個が600wですから、太陽の日射熱と内部発熱だけでこたつ10個分の熱を得られているということです。

オーバーヒートの是非については賛否あるのですが、基本的に弊社は肯定的です。
窓を開けて調節すればいいでしょう、というスタンスです。
屋外が凍えるような真冬に、家でTシャツ1枚で過ごせるなんて、とても贅沢な話だと思いませんか?ましてや、窓の開け締めなんて、今でも普通にやっているでしょう?

もっとも、窓を開けて熱を逃がすのではなく、家の蓄熱容量によってオーバーヒートを減らすという考え方もあります。そして、それはある程度機能するので、実際には「こたつ10個分」のような暑さにはなりません。
蓄熱というのは、昼間に家の基礎(コンクリート)や壁といった躯体に熱を貯めておき、日が落ちたら徐々に自然放熱するので、暖房を極力動かさないでも済むよね!という考え方です。

蓄熱容量の設定や蓄熱方法は今後の課題です。
蓄熱の方法や計算の目安は大体わかっているのですが、厳密にはまだ解けません。
「潜熱蓄熱材」のような新しい建材や、研究者の成果にも期待がかかっています。

地球の平均気温が上がれば、オーバーヒートの頻度は更に上がるわけですから、蓄熱の知見や技術が進めば、「一冬を完全無暖房で過ごす」という日が来ると思います。

一見素晴らしいことにように思えますが、それは決して望ましい未来ではないということを肝に命じて、地球環境への取り組みを進めていきましょう!


夏における、本稿のシミュレーションでは温度なりに絶対湿度が上がるケースを想定し、2℃上がるごとに1g/kg[DA]ずつ上げて計算しています。しかし、気温が1度上がるごとに、大気が保持できる水蒸気は約7%増加する(※)と言われていますから、そういう意味では+1g/kg[DA]という設定はかなり緩い設定かもしれません。ただ、これは「保持できる」というだけで、10年間分の気象の推移を追いかけると、東京においてはこのぐらいの設定が妥当かな、というラインでシミュレーションしています。

※出典:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ 
気象庁HP IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書→ FAQ8.1