第1種換気装置は魔法の箱ではない

※ 本稿は1種換気を否定するものではありません。熱交換による冷暖房負荷の低減や、除湿負荷の低減、冬の給気の不快感が減るといった魅力があります。

いろいろな側面を理解した上で選択していただきたいな、と思います。

最近の流行り ~第1種換気装置~

最近、1種換気が流行っております。

ネットでもyoutubeでも「1種換気が良い」「いや、3種が良い」など、コストメリットやメンテナンスの観点から様々な意見が飛び交っています。その熱効率の観点から「1種でなければ高性能とは言えない」といった風潮や、「魔法の箱」だと考えているのではないか?と思える時もあります。

1種換気の話ではないのですが、実際に弊社が遭遇したケースについて、示唆的な内容でしたので、書こうと思います。

実際にあった事例 ~築45年の家~

新規の設計のご依頼を頂いたお宅は築45年

当時、大手のゼネコンから独立された方が設計した住宅でした。
かなり気合の入った設計で、当時では珍しかったと思いますが、セントラルヒーティングが入っていました。昭和52年ですから、45年前の住宅です。

冷温水循環ポンプからのパイプが1、2階に家中張り巡らされている設計です。当時としては、とても快適な家だったのではないでしょうか。いたるところにファンコイルユニットパネルラジエーターといった放熱器が配置されています。

こうした家ができるということは、建築家のみならず、施主様も相当の気合で臨んだと思われます。

しかしその後、施主様(お父様)が亡くなられた後、このシステムについてわかっている方が誰も居なくなってしまいました。

しばらくすると、機械のここが壊れ、あそこが壊れ、、、。業者のツテも無く、、、かといっても特殊なので、業者を呼んでもどうすればいいか分からない。
、、、で、次第にそのシステムを使わなくなったそうです。

奥様もお子さんたちも一線で働いている年齢とはいえ、建築とは無縁の方たちばかり。
だから業者への適正な依頼方法も分からず。。。(当時はインターネットも無い)

とうとう、自分たちで業者に依頼し、ガスコンセントを設置。
そして、ガスストーブをいたるところに置くようになりました。
断熱性が低かったので家が寒すぎて、エアコンでは追いつかなかったわけです。
そして、夏が暑くなってくると、今度はエアコンも入れることになったそうです。

※これが「断熱性が低いと設備依存型になる」ということです。

試しに、仕様書に記載されている設計事務所、設備事務所、商品名を片っ端から検索しましたが、一つもヒットしません。つまり、もうこの世には設計者もおらず、商品の会社も部品も存在しないわけです。

比較的シンプルな作り方の場合は、簡易な改修で設備を入れ替えられるでしょう。
しかし、配管やダクトが家中に張り巡らされていると、天井や床をすべて壊すようなレベルの改修でなければなりません。

「そこまではお金ももったいないし、別の場所にわざわざ移ってまで、、、」ということで、残された人たちは、その時点で普及している設備をどんどん入れてしまいます。

こういった状況が1種換気装置にも起きる可能性があるわけです。

第1種換気装置を採用したら? ~「承継性」という性能~

皆さんが、いい家にしようと、一生懸命勉強し、性能や機能を十分に理解して1種換気を採用するとします。
そういう施主様であれば、メンテナンスや部品確保の問題は、ある程度クリアできます。
そして3、40年後、、、今度は子どもたちが引き継ぐ番となります。

果たして、お子さんはその意味を理解した上で引き継げるでしょうか?
その時点で設計者が存命でしょうか?(あるいは施工会社が存続しているか?)

メーカーが40年後に存続していない場合、代替品や部品はあるでしょうか?
入れ替え工事を施工できる業者さんがいるでしょうか?

こうした、いくつもの条件が揃って初めて、維持・更新できることになります。

この「承継性」とでもいうべき側面は、換気装置の大切な性能の一つです。
熱交換効率のように数値化できるものだけが性能ではありません。

1種を選択して家を建てようとされている方は、今一度、ご家族でよく話し合ってください。長期に渡って住み続けられる家を目指す場合、この点が大事だと私は思います。仮に1世代だけであっても、3~40年以上は維持しなければならないのです。

こういう前提を理解して細心の注意を払った設計にしないと、いつのまにか使われていない「大量のダクト」と「機械」が埋設された家になるかもしれません。

おまけ

ヨーロッパでは規格化が進んでいるので、他のメーカーの製品に入れ替えやすいという特徴があります。日本の1種換気装置は規格化されておらず、各社が独自に製品を作っています。ですから、他メーカーの製品に取り替えにくいのです。もし、30年後にそのメーカーが存続していなくて、類似の形式の装置がなかったら、、、。

反対にエアコンの場合は、日本では広く普及していることもあって規格化されています。だから、他メーカーのエアコンに簡単に入れ替えられます。

ここまで知ると「やっぱり環境先進国、ヨーロッパの1種換気だよね!」となりそうですが、
とってもいいお値段。。。

ちなみに、商品にもよりますが、
モーターの耐久性は10年程度、
熱交換素子は10~15年程度。
モーターに負荷のかかりやすい設計だともう少し寿命が短くなるかもしれません。
経済産業省の決まりで、メーカーは部品を6年間は保管しておくことになっているそうです。ですからメーカーの情報をもとに、壊れそうな部品を先行入手しておけば安心と言えます。海外製の場合は、有事があったり、方針が変われば簡単に供給がストップする可能性もあるため、海外製品の導入は準備万端かつ慎重に!


1種換気と3種換気についての比較考察です。こちらも併せてご一読ください。

1種換気と3種換気の比較考察や、全熱交換、顕熱交換のそれぞれの特徴や留意事項をご説明します。ライフスタイルに合わせた設計が大切です。